ラバーダムという名前を聞いた事がない方、聞いたことがある方
おられるかもしれませんが
ネットやSNSなどの普及で
ラバーダム治療をしないとダメな歯科医院だとか、やっている歯科医院を探しているとか
様々な情報があります。
実際のラバーダムとは何か??
なぜやっている歯科医院とやっていない歯科医院があるのか?
など少し書いてみたいと思います。
そもそもラバーダムとは?
ラバーダムシートというゴム製のシートを用いて(他にも色々と道具を使いますが簡易的に記載します)、治療対象とする歯だけ、もしくはその歯を含めた数歯をゴムの上に出して治療をする材料のことや治療方法を指します。
歯学生は学生時代の授業で、根管治療の実習をする際にラバーダムを用いて根管治療を行うことを学んだりします。
なので、診療でもラバーダムは主に根管治療をする際に行われることが多いです。
また、小児歯科で器具の落下や薬品の漏れが危ない場合に用いることを習ったりもします。
現在では他の治療にも使用されますが、それは後で書いていきます。

こちらは自院でラバーダムをして根管治療をしている歯ですが
他院で根管治療をされておられましたが、再治療が必要となり
被せ物を除去して虫歯を取り除いた後、残っている歯が少なかったのでそのままではラバーダムをすることができないと判断
コンポジットレジンで周りを補強する「隔壁(かくへき)」という処置を行い、ラバーダムをしています。
この時は自由診療での精密根管治療を希望されたため、ラバーダムをして根管治療をする歯1本だけを見えるようにしています。
唾液や呼気が来ないようにできるので、口の中で使う鏡がくもりません🪞✨
また、器具の落下や薬液などが漏れてもラバーダムがあると口の中には入っていかないので安全に治療ができます( ^ω^ )
ラバーダムのメリット、デメリット
メリット
1:感染対策
治療する歯や部位以外をゴムで覆うことによって、唾液などの水分や唾液と一緒に入ってくる細菌などの感染を防ぐことができます。
根管治療の成功率を高めることを考えた際に、目に見えない細菌との戦いになるのでラバーダムをすることで唾液などと一緒に侵入してくる細菌をなくしながら治療が可能になることから根管治療の成功率が上がります。
アメリカの根管治療専門医の根管治療の成功率が昔からかなり高いと言われているのが、ラバーダムを使用するためと言われております。逆に日本ではラバーダムが一般的ではないのと隔壁という作業すらされず根だけの状態にして根管治療をしたり外しやすい代わりに細菌が入りやすい仮蓋が使われていたりと問題が多いため、成功率がかなり悪いという報告があります。
2:防湿
歯の治療で使う材料は水分に弱いものが多いのですが、口の中は湿度が高く材料の効果を発揮させるのが難しい環境です。ラバーダム(ゴム)で水分を排除することによって材料の効果をしっかり出せるようになります。
また、呼吸をする息も湿度が高いため治療に使う鏡はすぐ曇ったりしますが、ラバーダムはその呼気を通さないため鏡が曇ることもなくしっかり見ることができます。
3:治療のしやすさ
これは歯科医師側のメリットですが、対象の歯以外をラバーダムで覆って治療する部位だけが見えるようになるため治療部位に集中することができます。またラバーダムがあるとほっぺたや舌が入ってこないため、それらを抑えながらする治療と違って手を取られることもないため術者もアシストするスタッフも治療がしやすくなります。
4:安全な治療
刺激のある薬剤や、先が尖った材料、装着する被せ物など、ラバーダムをしていると口の中に流れたり落ちたりして誤嚥することがなくなるため安全な治療ができます。
デメリット
1:時間がかかる
ラバーダムをつけるのは慣れたら大した時間はかからないのですが
短い治療時間で治療をすると毎回ラバーダムをつけるのは大変なので、できたら少し長い時間(1時間以上)をかけてラバーダムをした治療で一気に治療を進めたいというのがあります。
また、ラバーダムをかける際に金属や樹脂でできたクランプと言われる鉤爪のようなものを使うのですが、それが歯茎に当たって痛むので麻酔注射をしてから治療をすることが多いです。
麻酔注射の時間も含めて考えると通常の治療時間より長めに設定させて頂くことが多いです。
2:装着の違和感
ラバーダムをすると口での呼吸はしにくくなるので、人によっては息苦しさを感じるかもしれません。
また、ラバーダムシートで歯以外を覆うと口の中に溜まってくる唾液が見えないため、飲み込んで頂くか、溜まってきたら教えて頂いて横から唾液を吸ったりするしかないので少し苦しさがあるかもしれません。
治療中は麻酔注射をしているので痛みはありませんが、クランプが歯茎に食い込んでしまったり麻酔注射の針で傷ついた歯茎が麻酔の効果がきれると口内炎のようになって少し痛むことがあります。
3:費用
ラバーダムをするのに機材や材料を揃える必要があります。機材は多少の費用はかかりますがクランプは滅菌して再使用できますし、材料も選べば1つ1つは低価格なのですが。やはり多少のコストがかかってしまいます。
また、上記のように治療時間を長めにしたいので、その分他の方の治療ができなかったりアシストにつくスタッフ時間当たりの人件費もかかってしまいます。
そのため歯科医院側の方はコストが上がってしまいます(・_・;
4:保険診療での扱いがない
以前は保険診療の項目にあったそうなのですが(その頃を知らない世代なのですが、かなり低価格な費用だったのと虫歯の洪水と言われた時代では忙しすぎて皆さんほとんどされていなかったと聞いてます。。。)現在ではラバーダムの項目が保険診療にはなく、保険でやる場合の費用は包括で含まれてしまい別で材料の費用算定ができないため全て医院側の持ち出しになってしまうようになってしまいました。
やってもやらなくても頂く費用は変わらないとなると、元々が諸外国に比べて治療費が異常に低い日本の保険診療でさらにわざわざコストをかけてラバーダムをすると医院側はさらに低い利益で治療をすることになってしまいます。。。
ラバーダム治療が自由診療でされることが多い理由
患者さんのメリットは多いですが
医院側には問題が多く、上記のようなデメリットなどの理由で、保険診療ではラバーダムを使った治療は難しい面があります。
ただ、保険診療でもラバーダムを使った治療をされている医院さんはあります。
保険でもラバーダム治療をしているとお聞きしている医院さんでは、自由診療中心で複数の歯科医師がいたり、お父さんが院長で息子さんがこだわった治療をしたいとのことで息子さんがラバーダムで時間をかけて治療をしている間にお父さんが普通の保険治療をどんどんされていたり
保険診療内でされている医院さんは少し特殊な環境の医院さんが多いようなイメージです。
なので、実際はラバーダムを使った治療はどこも自由診療中心となっていることが多いのが実態です。
海外での現状
先進国などでは専門医制度が進んでいること、国による保険診療というものが日本のように整備されていないこと、など治療費用が元々高額ということもあり根管治療の専門医などではラバーダムを用いた治療はごく当たり前です。
1日の患者さんの数も少なく、1人にかける時間が長くても多くの費用をもらえる環境なのが大きいです。
アメリカなどは治療費の桁が変わって、前歯や奥歯で治療費用は違いますが、根管治療は数万から数十万が当たり前です(なので高額な治療費をかけて残せるかどうかわからない歯に高額な根管治療をするよりは、抜歯してインプラント治療になってしまうことが多いそうです)
高額な歯科治療費が先進国だけかといったらそういうわけでもなく、発展途上国でも下手したら日本の歯科医療費よりも数倍費用がかかってしまうのが通常と言われております😰
日本での現状
日本では保険診療で決められた治療費が世界的に見ても異常に低く、さらに自己負担が0〜3割であれば支払う費用が安いこともあり
患者さん側では、自分の歯に費用をかけて治療をする事に対して一般的な理解がなかったり、興味を持って調べたり知識を持っている方が少ないこと
歯科医院側では、診療報酬が低すぎて説明の時間を多く取れなかったり、手間も時間も医療側が出すコストも増えるだけで治療費が増えないこと(やればやるほど赤字と言われる歯科治療も多く、日本の保健歯科診療で不採算なことでよく名前が上がるのが入れ歯治療や根管治療、銀歯の被せ物などです)
などの理由でラバーダム治療がなかなか普及していません😰
勉強している若手の先生やこだわりのある先生はラバーダム治療の勉強もしており、技術や知識、メリットを知っていますが、行うにはなかなか難しい面があります。
そういった理由で、保険診療では一般的に行われることが少ない治療方法になってしまっています。
大都市やその近郊では保険医療機関ではない(保険診療ではなく自由診療のみ行う)根管治療専門医が増えており、そういった医院さんではラバーダムを用いた根管治療が普通ですし。
保険医療機関であっても自由診療では根管治療だけではなくダイレクトボンディング(レジンによる詰め物)や被せ物治療にもラバーダムをして行うこともあります。
当院(歯科・沖田オフィス)では?
2025年現在
現在のところ当院でのラバーダム治療は、基本的には自由診療の場合にしております。
当院は歯科医師1人のため保険診療では1人の方に治療時間をあまり長く取ることができないため(保険診療でも当院の治療時間は丁寧な治療をするためにおそらく普通の歯科医院さんよりは長めだと思いますが)です。
当院では元々保険診療でも1回あたりの治療時間を少し長めにしていますが、その治療時間がさらに倍近い時間になって材料費も多くかかってしまうのに保険診療では費用が変わらないことから保険診療でラバーダムを当たり前にすることは難しく、当院の方でどうしても必要と感じた場合以外は自由診療でラバーダムを使用しております。
ただ、保険診療の根管治療でも、少しでも細菌の侵入を防いだり、歯の破折防止などを考えて「隔壁」までは必ずしておりますし、全ての治療で10倍の高倍率の拡大鏡を使用、歯の中を触る場合はさらに高倍率(最大20倍)の歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を使用しております。
保険での根管治療、土台治療、詰め物や被せ物などの治療もZOOと呼ばれる装置や、普通の綿ではなく必要に応じて吸水シートのようなもので唾液の侵入を防いだり、できるだけの配慮はしております。
当院でラバーダムを使用する治療
・精密根管治療
・精密根管治療後の支台築造
・歯髄(神経)温存療法
・補綴物の装着
・ダイレクトボンディング
などの自由診療の際に使用しています。
精密根管治療はラバーダムをして歯科用顕微鏡(マイクロ)を用いて治療しますが
その他の治療含めて、ラバーダムをしたから費用が別でかかるわけではなく、治療費の中にラバーダムをする費用が含まれていて必要な際に行うという感じです。
また、部位や歯の位置や傾きによってはラバーダム治療が難しい場合もあるので、そういった場合はZOOと呼ばれる装置や粘膜を排除するような道具を用いることがあります。
ラバーダムを用いる際は治療時間が長くなることから、あらかじめ診療時間を長めに確保することが必要になります。そのため、事前に自由診療での治療を希望されていない場合は他の患者さんの予約によってはラバーダムを用いた治療はできず、改めて予約時間を取り直して治療をさせて頂くことになります。
ラバーダム治療の効果
上記に書いたように、ラバーダムを治療に用いるということはメリットが多々あるからですが
根管治療はラバーダムによって唾液の侵入がなく治療中の細菌感染も減るため成功率が上がると言われています。
また、神経が出そうな虫歯なども感染させないようにした方が神経を保存できる可能性が上がるためラバーダムの使用が推奨されます。
その他、ダイレクトボンディングや被せ物の装着に使うレジンという材料は水分に弱いため、唾液などによって歯に対する接着力が落ちてしまいます。そのためラバーダムで唾液の侵入や口の中の湿度を下げることによって被せ物とレジンが歯にしっかり接着するようになって治療の成功率や長持ちにつながる可能性が上がります。
当院の実例
精密根管治療

補綴治療(接着ブリッジ、ラミネートベニア装着時)

上の写真はセラミックの接着ブリッジを装着する際にラバーダムをしているところです。
この場合は周りの歯を含めてラバーダムの上に歯を見えるようにしています。
クランプではなくフロスを使用していますが、フロスを歯に巻き付けてラバーダムを抑えるようにしているところの写真です。
この後にブリッジの装着をしています。
別の例として



この方はラミネートベニア装着後、現在10年弱経過しておりますが
一度も脱離はしておりません( ^ω^ )
実際、八重歯など歯並びの問題でラバーダムができない方でも当院でやったセラミックのラミネートベニアが外れたことはありませんが(保険診療に使うCADCAM冠でのラミネートベニア形態の補綴物の脱離は経験しておりますが。。。)
より治療の確実性を上げたいと思った場合はラバーダム処置をすることがあります。
(ラバーダムを使うと他の歯が見えなくなったりすることによって、装着する被せ物の方向が顔や他の歯に対して僅かにずれていても気付きにくくなることもあるので、状況によってはラバーダムはせずに別の方法で装着することがあります⚠️)
まとめ
ラバーダム治療が向いている方
ラバーダム治療は患者さん側には様々なメリットがあります。
・費用や一回の時間がかかっても(治療時間は延びますが治療回数は減ります)しっかり治療をしたい方
・歯を残すために成功率を少しでも上げたい方
・被せ物や詰め物を少しでも長持ちさせたい方
・世界的にみて標準的な治療を受けたい方
・鼻呼吸ができる方(口呼吸しかできない場合は息苦しくて困難かもしれません)
など自由診療でも良いからしっかりした治療を受けたい方向けの治療方法かと思います。
ラバーダムを検討されたい方
ここで全て書くことは難しいですし、お口の中や歯の状態によっては向き不向きや適応外(口が開かない方、歯の位置や角度によっては先に矯正治療が必要となったり、保存不可能な虫歯や歯周病など)のこともあるので
ご興味のある方や、当院での治療を相談をしたいと思われた方は、まずはお気軽にご相談ください!!